妄想は甘くない

「…………ありがとうございます」

画面はスリープになっている。
まさかと嫌な予感が漂うが、そんなわけないよねと心で言い聞かせる。

「すみません、拾って下さったんですね」

精一杯の笑顔で告げ、今はこの場を立ち去るべきだと胸の奥からの警告に従おうとした。

「……これ……ケータイ小説ってやつですか?」

恐れていた言葉が、彼の口から繰り出された。
薄く笑ってはいるものの、その真意は読めない。

「画面が開いてたもんで、見えちゃいました」
「あっ、アハハッ。暇潰しになるんですよ」

何でもない風に誤魔化そうと試みるけれど、震えそうな声を勘付かれてはいないかと気が気じゃなかった。
目の前の人にいつもの大神さんの清々しさはなく、その表情は何処か恐ろしく感じた。

大丈夫。まさかこれだけのシーンで気付くはずない。
無理に希望を抱かせた心は、無惨にも打ち砕かれた。

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