妄想は甘くない
うっとりと胸に感想を浮かべていると、そこで初めて手元のスマートフォンに、先程から目を通している甘ったるい小説の1ページが開きっぱなしになっていることに気付いた。
慌てて画面をオフにしたことは棚に上げ、平静を装いテーブルへと置く。
何しろこの小説に登場する“大城さん”とやらは……
「お疲れぇー。宇佐美《うさみ》、今日も挙動不審隠せてないよ~? また例の小説開いてたぁ~?」
「ばっ……!! 声がでかいからっ! 近藤《こんどう》!」
意気揚々と一番人気のA定食をゲットして来た、同期の近藤 愛実《まなみ》がご機嫌でわたしの前に腰を降ろした。
弁当の蓋を外しかけていた手を振り上げ抗議すると、さすがに察したのか口元を掌で覆い声を潜めるので、わたしもそれに同調する。
「……まー、本人前にバレるわけいかないよね」
「ばっバレるわけないでしょ!? わたしなんかアウトオブ眼中」
「……それいつの死語……大神さん知らないんじゃ」
「そんなわけ……ったぶんっ! 年下っても、たったふたつだからね!?」
彼女は社内で唯一の、わたしの秘密を知る存在だ。