妄想は甘くない
「なんかこのシーン……どっかで見たことある気がするんですけど」
「……よくあるビジネスシーンじゃないですか?」
顔は笑っているが、明らかに目が笑っていない。
こんな彼を見たのは当然初めてのことで、後ろめたさと焦燥感から手まで震え出しそうだった。
「この“大城”って……俺のことじゃないです? 宇佐美さん?」
「ちが……」
弁解しようとした声が続かず、血の気が引き息を飲んだ。
じりじりと近付いて来る大神さんと同じだけ後ろに退いていたら、トン、と踵が壁にぶつかり、行き止まりを知らせる。
どういうわけか壁際に追い詰められてしまった。
お、怒ってる……!
怖い!
連れ出したのは優しさからではなかったと悟ると、一気に指先が冷えて行くように感じられた。
嫌われたくない一心で、青白い顔で思い掛けず謝罪を口走ってしまう。
「あ、あのあのわたし……ごめんなさ……」
「……うわー……まじなんだ」
一呼吸置いて開かれた唇から、信じられない口調で追求が飛び出す。
「いやっ、あの、何か気を悪くされたんだったら」
「後ろめたいことがあるから、とりあえず謝っとけって?」