妄想は甘くない
どうしよう。何て答えれば。肯定しようが否定しようが相手の思う壺な気がする。
己のコミュニケーションスキルの低さを呪いながら唇を固く結び押し黙っていると、不意に長い指が伸びて来た。
「ひっ」
悲鳴を上げた顎先を、つつと人差し指を滑らせて上向かされてしまった。
嫌でも目が離せない間隔で睨んでいた瞳が意地悪く細められ、ふっと口元に微かな笑みが零れる。
「……まぁ、今日のところはこのくらいにしておいてあげますよ」
漸く距離が出来て、僅かな安堵感から短く息を吐き出した。
束の間の開放だとしても、ひとまずこの場は助かったのだと自分を宥める。
去り際にやりと悪い顔が笑う。
「ただじゃおきませんから。覚悟して下さいね」
遠ざかる彼の足音と共に、平凡なわたしの日常が崩壊する音が聞こえたような錯覚を起こした。