妄想は甘くない
週末を迎える頃には、げっそりと憔悴し切ったような疲労感を覚えた。
しかし待ちに待った週末も、こんな時に限って数ヶ月に1度の土曜出勤である。
何故今……!? 社内カレンダーを恨みたくなったが、この会社に勤めている以上仕方あるまい。
連休初日である今回、出社しない社員も多かったが、リーダーである重圧から勤務せざるを得なかったのだ。
とにかく残り10日間さえ過ぎれば、仕事上の付き合いもほとんどなくなるのだから我慢だ。
比較的穏やかな土曜日の正午を迎える時刻、給湯室でインスタント麺にお湯を入れようとして箸がないことに気付いた。
確か更衣室に予備を置いてあった筈だと思い起こし、廊下を踏み出す。
人けが少なく電話も鳴らないとなると、どういうわけか仕事と休憩の境目が曖昧なようなぬるい空気が漂う。
エレベーターを待っていると、業務時間さながら掛けたままの眼鏡が目の端に映り込んだが、ポケットに入れるのも邪魔なので、まぁいいかと手を付けずにおいた。
正直かったるい土曜出勤は弁当を用意する気も起こらず、気を抜いていたのかもしれない。
地下へ降りて行く箱の中であくびを噛み殺しながら、到着し扉が開いたその時、現れた人物を前に硬直してしまう。