妄想は甘くない
何の因果か、最も会いたくない人がそこに立っている。
会いたくない会いたくないと強く願う程、鉢合わせてしまう法則ですか!?
「おっお疲れ様です!」
引き攣りそうな表情を隠せたとは思わないが、最早取り繕いたいとも考えなかった。
社会人として最低限の挨拶だけは済ませて、場を収めようと足早に歩を進めた。
しかしそんなわたしの願いは阻まれてしまう。
「やっと会えましたね、宇佐美さん」
整った顔に浮かんだ笑みに、あの日と同じように何処か毒が含まれているように感じられるのは、気のせいではないだろう。
笑顔を貼り付けて会釈すると、すぐ間近の更衣室のドアへほとんど走って逃げ込んだ。
背後から靴音が鋭く響いたかと思えば、ドアが閉まりかけたその時、隙間に滑り込まされた指を目撃した。
ノブを引くよりも先に、勢いを付けてこじ開けられてしまう。
「ちょっ……!」
「そんなあからさまに怯えなくたって。何もそんな無理難題は押し付けませんて」
あろうことか押し入って来た大神さんは、動揺したわたしを軽くいなして、後ろ手で鍵を閉めてしまった。