妄想は甘くない

「ごめんなさい!」

観念して、がばっと腰を曲げ頭を下げた。

「大神さんが怒ってらっしゃるのは当然です。もうしませんし、小説も削除しますから、どうか許し……」

下を向いたまま捲し立てると、頭上から想定外の言葉が振って来た。

「いいよ。小説、書いても」

口に出された応答を上手く飲み込めず、恐る恐る顔を上げる。

「はっ……?」
「だから、ネタにして良いから代わりに……」

無表情ながら熱い眼差しと視線が絡み、逸らせずに身体を硬くしていると、丁寧な所作で長い指が伸びて来て驚く。
頬に触れるか触れないかの指先はひやりと冷たく、その面立ちは何故か微笑みを湛えている。

「現実にしようか、あの妄想」
「!?」

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