妄想は甘くない
今度こそ彼が入って来れないであろうトイレへと駆け込んだ。
はぁはぁと肩で息をつきながら個室へ雪崩込むと力が抜け、ずるずるとしゃがみ込む。
「──っう……うぇっ。」
未だ涙は枯れることなくぼろぼろと零れ落ち、ストッキング越しに脚を濡らした。
その膝を抱え込むように、頭を埋め嗚咽が漏れる。
紳士的な男性だと信じていた大神さんが、あんな人だったなんて知りたくなかった。
強引に迫られるのも嫌だった。軽々しい言葉も悲しかった。それなのに……。
「~~~~……きもちいかった……」
真っ赤に染まった顔をぐしゃぐしゃと拭いながら、堪らず滲み出た言葉に、恥ずかしさの余り身震いし、二の腕を摩った。
こうしている今もまだ身体の芯が疼き続けていることを思い知らされ、辛うじて奮い立たせているこの脚も震え出しそうに思えた。
自分が自分でなくなってしまいそうで、怖かったのだ。
だって、初めてだったんだ。
こんな感覚、知らない……。
嫌なのに触れて欲しくて、その先が知りたくて堪らないなんて……。
脳裏を掠めただけで居てもたっても居られず、腕を掴んだ手に力が篭った。
一体わたしはいつからこんな変態になってしまったのかと、自己嫌悪で消えてしまいたい気持ちに苛まれた。