妄想は甘くない
「はーい、後はお任せ下さい」
声を掛けるとショートカットで快活な雰囲気のある後輩の関根さんが、ぴっと片手を挙げ目配せしてくれた。
指導担当である以上面倒を見るのは当然ではあるが、福地さんは配属が決まり4ヶ月を過ぎたにしては些か手が掛かる。
関根さんはそんなわたしをサポートしてくれる頼れる存在だ。
良い意味でサバサバしており、福地さんやこの部署の多くの女子達のように女おんなしていないので、わたしとしても気が楽だ。
やれやれと胸を撫で下ろし席へ着くと、自分の仕事に戻るべく担当エリアの営業へと連絡を入れた。
「伊月《いづき》産業様へ入金の確認をしたところ、遅れる旨、営業担当へ伝えたとの事だったんですが」
『──あ、そういえば』
当然ながら電話の相手は大神さんではなく、営業の神田《かんだ》さんが思い出したように声を上げた。
わたし達、顧客管理部は基本的に自分のエリアの担当者以外とは関わりがない。
彼が有名人であるが故に、わたしが一方的に存じ上げているだけだ。