妄想は甘くない
呆然と小さくなる後ろ姿を見送って暫く、はたと我に返る。
目まぐるしい状況から一変、次第に頭が冷え状況を改めて把握すると、顔を青くした。
駆り立てられるように大口を開けて叫んでしまう。
「なんでいつも強引なのっ!」
睨み上げた人は若干の戸惑いを滲ませているが、その目は何故か精彩を放って輝いて見えた。
「なんで……なんであんなこと……っ! 嘘ばっか! バレたらどうすんのっ!」
「バレねぇだろ。もう2度と声掛けて来れねぇだろうし」
「ハラハラした~」
「いたっ。待てって」
顰めっ面で捲し立てつつも、心細さと安堵から、どういうわけか涙が溢れてしまいそうに胸が熱かった。
零れ落ちそうな気持ちを堪えて、前の人の胸元を子どもじみた仕草で叩いてしまう。
視界が潤んで表情は伺えないが、事もなげに天井を仰ぎ頭を掻いている気配がした。