妄想は甘くない

お洒落に飾られた海老マヨや酢豚に舌鼓を打ちながら、その奥のシャンパングラスからゆらゆらと浮かび上がる泡が幻想的に映った。
絞った照明の煌めきも相まって、実は未だ夢か妄想の中で微睡んでいるのではないかと錯覚を起こす程だった。

「休みの日は何してんの」

耳に心地好く響くピアノの生演奏もしっとりとしたムードを醸している中、不意に投げられたありふれた、しかし何処か色恋めいた質問。
一瞬返答を迷ったが、今さら見栄を張ったところで既に実態を暴かれてしまっていることを失念していた。

「……わたしは、小説が好きだから……」
「ケータイ小説?」

正直に答えると、白ワインを一口含みながら先を促すように合わせられた眼差しから少し逃れて、赤いテーブルクロスを眺めた。

「純文学も読むよ。後は、映画も好きで、ひとりで観に行ったり」
「……ひとりが良いの?」

「んー……なんかね、ひとりになりたくなるんだ。仕事の人間関係で気疲れしてるのかな」
「……わからなくもない」

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