妄想は甘くない
大神さんも、気疲れする時があるのだろうか。
王子様の振る舞いは、進んでしているわけじゃ……?
脳内を疑問符が回ると同時にお酒も回って来たようで、自然と顔が緩んで微かに笑い声が零れる。
「でも今は、なんか居心地良い」
声になった言葉はピアノのメロディーに乗って、周囲の空間に溶け込んだかに思えた。
共有しているこの瞬間が、空気の色を変えて行く。
まるで自室で晩酌でもしているかのように寛いで、片肘で頭を支えていると、隣からの熱視線に捕らわれてしまった。
「……宇佐美さんさ……俺がオオカミだってこと、忘れてない?」
「……」
細められた瞳に絡め取られたまま、テーブルに置いた右手に重ねられた左手に浮き出た筋にドキッと胸が鳴る。
ボリュームを上げた心音が、身体の中心を響き渡っている。
見つめ合う自分の顔が高揚して熱を持ったことを、触れなくても理解した。