妄想は甘くない

「気、抜き過ぎ。あんまり簡単に人信用してたら、損するよ」

咄嗟に背筋を伸ばしたものの瞼は重く、ゆっくりと瞬きを続けた。
返す言葉を探って、口を開きかけたまま幾ばくか思案に耽る。

「……だって、人に対して疑って掛かってても、あんまり良いことないじゃない? こういう人なんだなって思ってた方が、自分が楽だから」

ふわふわと覚束無い頭ながら、もっともらしい自説を並べていて、我ながら驚いた。
横の人がじりじりと距離を詰めて来て、赤面したままで堪らず声を呑む。

「面白いよね、宇佐美さんって」
「そう……? あんまり言われたことないんだけど」

まだそれ程遅い時間ではないのに、酔っ払っているからか、はたまた店の落ち着いた雰囲気からか、近寄っても然して人目は気にならなかった。

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