妄想は甘くない
「……ジャスミン……?」
目線を下げるとテーブルの上に、白い花の浮かんでいるシャンパングラスが佇んでいた。
「茉莉」
椅子に腰を下ろすと同時に、またしても名前を呼び捨てにされて心臓が大きく脈打つ。
鼓動が響く身体で向き直ると、頬杖を付いた彼が柔らかく微笑む。
「って、ジャスミンの花のことなんでしょ?」
「……よく知ってるね」
なんだ名前の由来の話か、紛らわしい。
冷や汗を流しつつも、落ち着こうと胸元を掌で押さえた。
「知るわけないじゃん。調べたんだよ。あのプロフィール写真の花がそうだよね」
「……」
わざわざ調べただのキザな演出だの、いちいち女心を擽る王子様に、耐性のないわたしの頭は既に逆上せ上りそうだった。
「すごい、イメージぴったりの名前」
「えっ、そう……?」
「純粋で、清廉潔白で、女性の奥ゆかしさがあるような」
「……そんな、良いものじゃないよ……」