軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「お前は楽しそうだな」


 怪訝な顔で皮肉を込めて言ったレイヴンだったが、べリエスは痛くも痒くもないのか、へらっとした笑みが返ってくる。


「皇帝陛下がお預けを食らって苦しむ姿は滑稽で、今日は晩酌が進みそうですよ」


(ただ、人の不幸を酒の肴にするところは心底好きになれない)


 三十三歳と六つほど年上になるべリエス・ローレンツという男は、お堅い軍事司令官という職に就いているせいなのか、少々加虐趣味を拗らせている。


 変態という言葉がふさわしい人間を、この男以外に思いつかないくらいだ。


「歪んでるな」

「それは皇帝陛下の方でしょう」


 歯に衣着せぬ物言いに、今さらとやかく言うつもりはない。だが自分が歪んでいると言われれば、話は別だ。


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