軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
「いけない、レイヴンに呼ばれてるんだった」
ハッと伝言を思い出して、椅子から立ち上がる。
もう顔を見せてくれないのではないかと思っていたのに、なんの話だろうか。
(まさか、別れ話かしら? そうだったらどうしましょう)
ここを出ていくといったのは、やるせなさのあまり勢いで口から出てしまった言葉であって、決して本気ではない。
それをレイヴンが真に受けてしまったらと不安に押し潰されそうになるが、彼を待たせているのに部屋で立ち尽くしているわけにもいかない。
「きっと大丈夫、悪いようにはならないわ」
そう自分を励ましながら、ざわつく心に気づかないふりをして重い足取りで広間へと向かった。