軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「我らが聖女、セレアに祈りを捧げよ」


 大神官であるフェンリルの声で我に返る。セレアは今、神殿の礼拝堂にて民の祈りを神に伝えるという役目を担っている。その礼拝の最中であることを思い出した。


 といっても、聖女は神と大神官以外の前で姿を見せることも声を聞かれることも許されていない。なので礼拝堂の中央の高台にある黄金の椅子に鎮座して、ただ祈られるだけだ。


 祈りの種類は様々だった。息子の病気を治してほしいという純真なものから、偉大な人間になりたい、金が欲しい、永遠の美を手に入れたいという傲慢なもの。


それらを聞くたび、祈るより自分で成し遂げようとする気はないのかと、ここへ来るより病弱な子供の側にいてあげないのかと言ってやりたくなる。


 でも、掟に縛られて生き方を変えられない自分に彼らを責める資格はないと、ベールがあることをいいことに自嘲的に笑った。

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