軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


 男は広間に入ってきたセレアをゆっくりと振り返る。見覚えのあるトパーズの目を細めて、ふわりと微笑んだ。


「セレア」

「う、嘘っ」


 その声を聞き間違えるはずがない、その姿を見間違えるはずがない。


 口元をおさえながら数歩、よろけながら彼に近づく。胸が熱くなり、涙がハラハラと頬を伝って広間の床に落ちた。


「アグニなの?」


 白い布切れのようなボロボロの服を着せられ、むき出しになった腕や足には縄で縛られたような青い痣がある。


その姿は見ているだけで痛々しく、自分を逃がした後に罰を受けたのだとわかった。



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