軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


 聖女になる前はごく普通の町娘だったこともあり、セレアは神殿にきてからも身の回りのことをすべて自分で行っていた。


 なので許可なく誰かがあの部屋に入ることはないが、彼がこの神殿内を歩き回れば話は別だ。 


「聖女様はいつまで、身の回りのことをご自分でなさるおつもりですか?」


 歩きながら、フェンリルがこちらを振り向く。


 この問いかけはこれが初めてではなく、またその話かとため息をつきそうになった。


「掟には背いていません。ですから、この先もずっとです」


(毎日のように同じ質問をされると、気が滅入ってしまうわ)


 きわめて平静に答えたが、内心は息が詰まりそうだった。フェンリルはおそらく、セレアをより聖女として縛りつけたいのだ。少しの自由も与えたくない。そんな考えが毎度繰り返されるこの会話と彼の感情の凪いだ瞳から見てとれた。

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