軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「レイヴン、いますか?」


 一応、部屋の外なので人目を気にして敬語を使う。シラユリの花がゆらゆらと風に揺れる中、セレアは夫の姿を探して庭園を歩いていた。そのときだった。


「んんっ!」


(いやっ、なに!?)


 急に口元を布で覆われて、目を見開く。なにが起きたのか、わからなかった。


ただ、頭の中では必死に状況を把握しようと思考が駆け巡っている。なのに、霧を掴むみたいに答えにはたどり着かない。



「お迎えに上がりましたよ、聖女様」


 耳元で聞こえた声にドクリと心臓が騒ぎ出す。早くこの腕から逃れなければと、警報がけたたましく頭の中で鳴り響いていた。


(私を聖女様なんて呼ぶのは、あの神殿の人間しかありえない)


 どうやってこの国に、宮殿に入ることができたのかはわからない。けれど、カエトロ―グ島の大神官はまだ諦めていなかったらしい。

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