軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「んっ、離し……んぐっ」


(このままじゃ、連れ去られる!)


 恐怖に指先が冷たくなり、抑えつける男の腕を爪で引っ掻くも力が入らない。というより、じんじんと体が痺れているような気がする。


「んーっ、ん!」


(嫌、レイヴン助けてっ、レイヴン!)


 また、あの牢獄のような場所で神に捧げられ、民や大神官の犠牲になるのか。絶望がひたひたと足元から這い上がってくるようだった。


「ふ、んっ……」


(なんだろう、布から甘い香りがする)


 もしかして、眠り薬でも染み込ませてあったのだろうか。そう気づいたときには、セレアの意識は深い闇の中へと堕ちていった。


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