軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
礼拝堂に足を踏み入れた瞬間、「聖女様だ」、「おおっ、我らに救いを!」という民衆の声にあてられて眩暈がしそうになった。
(久しぶりだわ、この感覚……)
前は聖女として孤独に生きることを受け入れていたから、なにも感じないよう感情に蓋をすることができた。けれど、今は違う。
自分の意思がハッキリしているからか、彼らがいかに狂っているのかがわかる。
大神官によって人為的に作られた神を盲信しなければ、生きることができない民たち。その信仰心を利用して、権力を振るう大神官という悪魔。
この島のすべてが破錠しているのだ。
「聖女様を十字架へ括りつけなさい」
「え?」
大神官の口から理解しがたい命令が飛び、セレアは決して声を聞かせてはいけないという掟を破ってしまう。
咎めるような視線が大神官から飛んできたが、それどころではなかった。
瞬く間にセレアは神官たちによって羽交い絞めにされ、礼拝堂の中央にある十字架に鎖で括りつけられる。