軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
「セレアのことになると、レイヴンは性格が変わるな」
「俺も少々戸惑っている」
アグニの言うことは当たっている。実際、カエトロ―グ島に攻め入ることでの国や民への影響など二の次で、セレアを奪い返すことしか頭になかった。
(セレアのことになると、俺は皇帝ではなくただの男になり下がる)
でも、それを不快だとは思わない。これまで与えられた皇帝という役目を義務のようにこなしてきたレイヴン。
だが初めて自ら手に入れたいと思えるものに出会えて、皇帝ではなくレイヴン・ヴォルテールというひとりの男としての幸せを知れた。
彼女の生きる地である、イザナギ帝国を豊かにしたいと思えるようになったのだ。
「陛下! 島の民が武器を手に続々と港に押しかけています」
「民に手は上げるな。歯向かう者は武器を奪い拘束しろ」
指示を出したところで、武器を持った民が港に集まってくるのが目視でも確認できた。民衆はレイヴンたちを囲むようにして斧や桑を構えて迫ってくる。