軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「その人の言う通り、私たちは間違っていたのです」


 周章狼狽の人々の中から、芯のある澄んだ男性の声が響いた。洗脳されていたとは思えないほど、しっかりとした意思を宿すひと言だ。


「私たちの娘は聖女として神殿に連れていかれ、苗字まで奪われて親子の縁はもうないとまで言われました」


 そう言いながら現れたのは腰の曲がった老夫婦だった。その面立ちにどこか見覚えがるような気がして、レイヴンは記憶を辿る。


「おじさん、おばさん!」


 その思考を遮ったのは、アグニの声だった。どういうことかとアグニを見れば、「セレアのご両親だ」と説明される。


(どうりで、見覚えがあるわけだ)


 優しげに垂れ、聡明なサファイアの輝きを放つ目元はセレアの面影を彷彿させる。珍しい髪色は母親譲りだったことを初めて知った瞬間だった。

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