軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「美しい……な」


 レイヴンは愛敬の眼差しを向けてくるが、その声には熱っぽさがある。本音が思わず漏れてしまったかのような呟きに、セレアの心臓は高鳴った。


「お前は聖女ではない。だがそれに匹敵するほどの純真無垢さが、見る者の心を浄化してくれる。そんな清い存在には違いない」


(そこまで手放しで褒められると、照れてしまうわ)


 彼の方こそ、妻贔屓だと思う。レイヴンの瞳には、セレアの姿が神話に出てくる女神にでも見えているかのような物言いだ。


賛辞の嵐にくすぐったい気持ちになったセレアは、その腕の中で軽く身じろぐ。それを許さないとでも言うように、強く抱きしめられた。


「愛しいセレア、俺からひとつ叶えてほしい願いがある」


 彼の大きな手がセレアの頬に触れて、顔を固定する。そして、柔らかい音色の中に真剣みを帯びた声が耳に届いた。


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