軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「聖女は結婚はできません。神に捧げられた身ですから」


 引き攣る口元を引き上げて、声の音調をひとつ上げた。自分を褒めてあげたいくらいに、明るく振る舞うことができたと思う。


「では、一生独身を貫くというのか」


 信じられないと言いたげに、彼は目を丸くする。


(この人、こんな顔もするのね)


 滅多に動かない表情が崩れて、今度はセレアの方が驚く番だった。どこか抜けているようにも見えて、親しみがわく。


「なぜだ?」

「えっと、それが私に課せられた宿命ですから」


 それが当たり前だと受け入れるしかなかったセレアに、なぜかと問うたのは彼が初めてかもしれない。本来ならば、疑問に思うことすら許されないからだ。


 だから私も、本心を押し殺して、あらかじめ用意されていた答えを口にしたのだが……。

< 50 / 281 >

この作品をシェア

pagetop