軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
「いつも質問ばかりだな……戦術書だ」
そう、セレアは事あるごとにレイヴンに質問をしているのだが、不快というよりは仕方なしにという表情で国の観光地や町で流行の工芸品のことなど、なんでも教えてくれた。
彼は自分の知らないことを知り、考え方も島の人間とは違って自由な思想を持っている。
自分で考え、発言する彼のことがほかの誰よりも魅力的にセレアの瞳には映った。
だからこそ、レインを知りたいと思う。
「戦術書……はないですが、歴史書を読み漁っている知り合いの神官がいるので、借りてきましょうか?」
真面目で勉強家のアグニの姿を思い浮かべながら提案すると、「頼む」といってレイヴンはまた手元の本に視線を落とす。
子供じみた童話でも、なにもないよりはマシなのだろう。
療養しなければいけないとはいえ、ずっと部屋に閉じこもっているのも気が滅入るはず。神殿の掟があるので部屋の外へ出すことはできないが、せめて彼の気を紛らわすことができる環境を作れるよう配慮しようと思った。