軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
「それで、話って?」
「あのね、歴史書を貸してほしいの」
「歴史書?」
なんでそんなものを? と言いたげな疑問符が彼の頭の上にいくつも浮かんでいる。不思議そうに聞き返してきたので、レイヴンの要望だと話した。
「匿うだけでも大変だっていうのに、欲張りだな。歴史書は持っていってもいいけど、きみも彼の体調が回復したのなら早々に追い出すべきだ」
「ええ、そうね……」
(本当はそうしなきゃいけないって、わかってるのよ)
とは言ったものの、あの部屋からレイヴンがいなくなると思うと寂しい。退屈でくだらない礼拝から帰ってきたとき、あの不愛想な顔を見るとなぜか笑みがこぼれる。
口数の少ない彼が昨日よりひと言、ふた言でも多く話してくれるとその日は幸せな気分になれた。