軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
◇三章◇
皇帝陛下に攫われました
嵐が過ぎ去り、空気が静けさに充たされる。どれだけの時間そうしていたのか、ふたりで冷たい白亜の床に座り込み、月明りに照らされお互いの瞳を見つめ合っていた。
「まあ、お前がどんな答えを出そうと攫うつもりだったがな」
セレアが落ち着いたのを確認すると、レイヴンは体を少し離して言う。その手はセレアの肩に乗せられ、布越しに伝わる体温に心が震えた。
「攫うって、どうして?」
(レイヴンにとって私は、ただ看病してくれた人間でそれ以上ではないでしょう?)
それは、彼の興味なさげな態度でわかっていた。同じ空間にいたのに彼が見ていたのは本ばかりで、目が合ったのは指で数えられるほど。
だから、彼が自分に対してそこまでしてくれる理由が思い当たらなかった。