好きでいいかも……
 
「べつに…… どうって事ない話よ……」


「いいから、全て話しなさい」

 晴香の言葉に負け、私はジョンとの出来事を、ぽつぽつと話出した。


 最後まで黙っていた晴香は、少し考えてから、綺麗な顔をきりっとさせ言った。



「で、逃げて帰って来たってわけね……」


「そうなるわね……」

 私は小さな声で、まるで自分に言っているようだ。


「彼は、今頃傷ついているでしょね? 好きな人に逃げられて……」



「そ、そんな事分からないじゃない? 
 彼は、あのホテルグループの社長よ。私の事なんて、成り行きに過ぎないわよ。居なくなってほっとしているかも……」


 なんでもないように、明るく言ったつもりだが……


 晴香は、大きくため息をつくと、少し切なそうな顔をした。



「どうして、私達、いつのまにか逃げ道を作るようになっちゃったのかしらね?」


「逃げ道?」

 私は、自分に問いかけるように晴香の言葉を繰り返した。


「そうよ。傷つかないように、自分の気持ちをごまかせるように理由をさがすの。初めから解っていたとか? 覚悟していたとか? 本当は、好きな事を認めるのが怖いだけ……」


「晴香さん……」


「信じたら裏切られるのが怖い。だから、初めから疑って、やっぱりねって、あきらめるの。でも、それは、自分が相手を信じなかっただけの事だったりするんだけどね」



「そりゃ、やっぱり信じることは勇気がいるし、裏切られるたら立ち直れないかもしれない。でも、立ち直って生きて行かなきゃと思うと、初めから諦めておいた方が楽な気がする」

 私は、胸の中の小さなおもりを、確認するように言った。


「そうよね。一人でだって生きてかならないし…… 防御して当然よ」

 私たちは、そろって息をついた。



「もう、誰かを本気で好きになるつもりなんてなかったのに……」


「一晩だけの大人の関係、なんて訳にはいかなそうね…… まあ、自分でコントロール出来る事じゃないから……」


「ふう―っ」

 私は、また、深いため息をもらしてしまった。
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