きれいな水と不純なわれら
きれいな水と不純なわれら





目を覚ますと、見慣れた灰色の天井が目に入る。


すぐには体を起こさず、時計を確認しようと視線を移していくと、アルプスの天然水。


テーブルの上にミネラルウォーターのボトルが出しっぱなしになっていた。昨夜生理痛がひどくて薬を飲んだ時にしまい忘れたらしい。


流動していない水は腐る、と誰かに聞いた。


物質が腐るわけではなく、水の中の不純物が微生物に分解されて濁るので、飲用できなくなるそうだ。あのボトルの水も、いつまで純粋なままでいられるだろう。





目覚めたばかりの部屋は薄暗く、空気が沈澱している。


わたしの住むアパートは日当たりが悪く、特にこの部屋は日中の僅かな時間しかまともに日差しが来ない。駅が近ければ何でも良かったので、それは別に大した問題ではない。


わたしは起き上がってベッドから降りる。体温を持った生命体が活動を始めることで、部屋の空気も少しずつ流れ始める。部屋も水と同じ。しばらく留守にするだけで空気は凍ったように静止し、濁り、時間さえも止まる。ドアを開けた瞬間、帰ってきた家主を拒絶するようなあの感覚は、未だに慣れることができない。


土曜日なのに5時半に起きてしまった。


わたしは部屋の窓を開けて、顔を洗い、朝食を作る。家事は嫌いではない。夢中で手を動かしているその間だけ、わたしはわたしを忘れられる。心の安寧を得られる。


食事を済ませて、のんびり洗濯や掃除をしていると大体9時になる。来るとしたらそろそろ、と思っていると、やはりあの人はやって来る。


月のはじめの土曜日は、わたしの飼い主がこの部屋を訪れるのだ。



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