嘘
待ち合わせ場所に着くと、予想通り松尾さんが先に待っていた。
早めに来るだろうと思って、待ち合わせの15分前には着いた。
だけど彼女はそれを上回っていたようだ。
一体何分前からそこにいたんだろう。
「お待たせ。ごめん待った?」
「ううん。ちょうど今来たところ。」
映画館は予想以上に混雑していたが、チケットの予約は松尾さんがしてくれていたので問題なかった。
「“兄弟の系譜~従兄弟襲来~”
か・・・・ってこれもしかして俺に貸してくれた本のやつ!?」
いま思うと、何の映画を見るか聞いていなかった俺もどうかと思うが、
チケットに書かれている見覚えのあるタイトルに驚いた。
「うん。あの・・河原君に貸した
“兄弟の系譜”シリーズの実写映画なんだ。」
「へ~シリーズものだったんだね。」
「来月、完結編になる
“兄弟の系譜~親父の帰還~”
が発売されるから、また読み終わったら貸すね。」
「あ、ありがとう。」
こんなことなら、ちゃんと読んでから松尾さんに返せばよかった。
結局おれはあの本を1ページも読んでいない。
なんだか見たことも無い“兄弟”に振り回されている感じだよ。