嘘
「あの・・」
「うわっ!」
参考書から視線を上に上げると、いつの間にか知らない女子が立っていた。
「あ、あ、驚かせてごめん。あの・・」
「ちょっと待った。
俺の名前は河原ハヤタ。
1年1組。中学は末丸東だった。
以上。何か用?」
目の前にいる女子が何か言いかけたが、それを遮り自己紹介をする。
これは必勝法に近い戦法だ。
死神が俺に出したルールは、
『誰かに何かを聞かれたら、常に嘘をつけ』
裏を返せば、聞かれさえしなければ本当の事を言っても大丈夫という事になる。
初めて喋る奴には自分から名前とクラスを言うことで、夏目の時のようなつまらない嘘をつく必要は無い。
・・・・大抵“変な奴”って思われちゃうけどな・・。
「フフッ。河原君って面白いね。」
「・・・」
何も答えず様子を見る。
・・誰だ?・・・
1組の生徒ではないと思うけど。
「あ、あの・・私、2組の松尾ミサキ。
・・よろしくね。」
「よろしく。」
「河原君いつも図書室にいるから、
いつか・・声掛けられたらいいなって・・思ってたんだ。」
「松尾さんもよく来るの?」
「うん。・・・一応ほとんど毎日。
いつもあそこに。」
松尾さんが少し向こうの席を指さす。
「ごめん。
全く気にしてなかった。」
「河原君って運動部にいそうな人だから・・図書室にいるのが凄く不思議で・・。」
「そうなのか。」
「中学・・」
「ちょっと待った。
中学ではサッカー部に入っていた。
高校では部活に入らずに勉強に打ち込む。
以上。何?」
相手が何を言うか先読みする能力が欲しい今日この頃だ。
「まだ何も聞いてないのに・・すごい。」
松尾さんは控えめに笑う。