「あの・・」


「うわっ!」


参考書から視線を上に上げると、いつの間にか知らない女子が立っていた。


「あ、あ、驚かせてごめん。あの・・」


「ちょっと待った。
俺の名前は河原ハヤタ。
1年1組。中学は末丸東だった。
以上。何か用?」



目の前にいる女子が何か言いかけたが、それを遮り自己紹介をする。


これは必勝法に近い戦法だ。


死神が俺に出したルールは、

『誰かに何かを聞かれたら、常に嘘をつけ』

裏を返せば、聞かれさえしなければ本当の事を言っても大丈夫という事になる。



初めて喋る奴には自分から名前とクラスを言うことで、夏目の時のようなつまらない嘘をつく必要は無い。


・・・・大抵“変な奴”って思われちゃうけどな・・。



「フフッ。河原君って面白いね。」


「・・・」



何も答えず様子を見る。


・・誰だ?・・・
1組の生徒ではないと思うけど。





「あ、あの・・私、2組の松尾ミサキ。
・・よろしくね。」


「よろしく。」


「河原君いつも図書室にいるから、

いつか・・声掛けられたらいいなって・・思ってたんだ。」


「松尾さんもよく来るの?」


「うん。・・・一応ほとんど毎日。
いつもあそこに。」


松尾さんが少し向こうの席を指さす。


「ごめん。
全く気にしてなかった。」


「河原君って運動部にいそうな人だから・・図書室にいるのが凄く不思議で・・。」


「そうなのか。」


「中学・・」


「ちょっと待った。
中学ではサッカー部に入っていた。
高校では部活に入らずに勉強に打ち込む。
以上。何?」




相手が何を言うか先読みする能力が欲しい今日この頃だ。




「まだ何も聞いてないのに・・すごい。」


松尾さんは控えめに笑う。

< 26 / 379 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop