加奈の場合

私は言葉が何も、出てこなかった。

作り笑顔が精一杯。

可愛くない、こんな私は可愛くない。


だって、とっくに失恋してたなんて……



「 兄貴、いつから付き合ってたの?」

「 半年前だな、何、皐月が加奈ちゃんと付き合ってたなら恋話できたな 」

「 するか! それより、俺は加奈とは… 」




ガタッと、皐月の言葉を遮るように席をたった。



「 加奈ちゃん?」

「 あ… 私…… トイレに…… 」



言ってすぐさま立ち去った。

いられなかった、もう理雄さんの顔が見られなかった。

彼女を見てる目が私を見ないから。

私にはわかったの……




「 おい! 加奈っ… 待てって 」



皐月……



「 理雄さんにあんな綺麗な彼女がいたなんて、皐月羨ましいでしょ 」

「 ったく… 兄貴が好きだったんだろ、わかってるよ あの時から 」



あの時?

あ~… そっか、友達になろうって言った時の事か。

そうだね、シタタカなのは私だったね。



理雄さんの彼女になりたかったから。

皐月を利用したんだよ、私……


バチが当たったのかな……



「 皐月、ごめんね。私は理雄さんに妹みたいにしか見てもらえてなかったみたい。
潔く諦める、もう一ミリも見込みないってわかったの 」

「 ……俺になら一ミリの期待してもいいけど 」




え…… 皐月?




そう言った皐月の顔、まるで…


まるで、私を好きみたいな言い方で、その優しい笑みは何?


ドキドキするじゃない……


俺なら…… そう言う意味にも聞こえちゃう。


私は皐月のお兄ちゃんを、理雄さんが好きだったのに、何言ってるの…


ドキドキさせないでよ。



「 なんで兄貴が好きだったの?」



好きだった… もう過去形?



「 聖兄みたいだから、兄貴の何が良かったの?」



聖ちゃん、みたい?

弟の皐月から見て、聖ちゃんは理雄さんみたいなの?


お兄ちゃん、それだけの……


理雄さんは聖ちゃん、みたい?



肩の力が、体から力が抜けていく。

何かがストン、と落ちたような感覚。



私の好きは、聖ちゃんを好きと同じように理雄さんを見て思ってたの?


聖ちゃんとは違う雰囲気のお兄ちゃんだから?


勘違いしてた?




「 加奈 」



頭に軽い優しい衝撃がきた。

皐月の手が、私の頭にある。


しかも、よしよし… 撫でた。


理雄さんに触ってもらえたら、なんて思ってたのに、皐月が……



「 泣けば? 隠してやるから 」



皐月がそう言いながら、私に帽子を被せた。

理雄からプレゼントされた帽子を、私に被せた。




“隠してやるから”



うっ……

こんなんされたら、泣くよ。

皐月のバカ。




私をショップの片隅に寄せて人からも隠してくれてる皐月。


落ち着く……




「 ありがと、皐月。本気の恋かと思ってたの… 違ったみたい、しばらくは無理だけど早く切り替えできそう 」



帰ったら聖ちゃんになんか買ってもらお。

高いやつ。



「 フラれたもの同士、似てるな 」

「 え、皐月もフラれたの? まさかっ 聖ちゃ…… 」

「 バカだろ お前、俺はかなり前にフラれた… しかも忘れれてるみたいだし 」




理雄さんとは違うイケメンの皐月でもフラれるんだ。

意外……



「 かわいそうに、よしよし。今日は誕生日でしょ、嫌なことは忘れようよ 」

「 忘れられても、俺は好きだから忘れてない 」



私の頭に被せた帽子から見えにくい皐月の顔を見ようと少し見上げるようにしてみた。

皐月の顔が、真剣だった。

でも皐月が自分の帽子のツバを下げて顔を隠してしまった。



不意に何かを思いだしかけた。



「 加奈、なんか飲も 」

「 あ、うん 」



なぜだろう、理雄さんに彼女がいてショックだったのに、泣き腫らすようなとこまで傷ついてない。

失恋したと、受け止めているからか。

聖ちゃんとは違うお兄ちゃんだったから惹かれただけなのか、今となってはわからない。


それほど落ち込んではいない。


むしろ、皐月が気になる。


意味深でいて意味があるような事を言うから。











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