鬼の生き様

「種田宝蔵院流槍術とは初めて聞いたが、槍使いとは面白い。
いいだろう、参加したまえ」

勇は面白そうに言った。
盛り上がり、皆が楽しめれば、それで良い。

「種田流槍術だか、宝蔵院流槍術だか忘れちまったんだけど腕にャ自身はあるぜ」

左之助は嬉々として喜んだ。
よほどの祭りなどの行事好きなのだろう。

(かなり怪しい変わった奴だが、悪い奴ではなさそうだ)

歳三は左之助を見て、そう思った。
左之助は用意周到で何処かの店から盗んできたのか、のぼりを手にしている。

「ねぇねぇ、総大将さんよ。
俺が勝ったあかつきにゃ、ここんところ飯食ってなくてよ……。飯をご馳走してくんねえかい?」

「いいだろう」

「ついでに女も喰いてえなァ!」

下品に笑いながらそう言うと、勇は渋柿でも食ったかのように顔をしかめたが、頷いた。

「……いいだろう」

「さっすが、総大将!男前だぜ」

左之助はそれを聞くと余計にはしゃぎ、とても二十一歳とは見えなかった。

「ただし、この試合のみだ。
永倉くんも、藤堂くんもね。
最後の試合は天然理心流の者達だけで行いたい」

 痺れを切らしたかのように周斎はそう言った。
勇は人を邪険にする事はなく、どんな者でも分け隔てなく接する。
人が良すぎるのだ、それに関しては周斎も懸念を抱いている。

「左之助は一応、試衛館の客人として出させるから紅組としよう。
永倉くんと藤堂くんは白組でいいかね?」

「異論はありません」

これで公平に戦える。
土器をつけて、皆は持ち場についた。

「ひょんな事から、近藤さんの近くには人が集まってきますね」

「あぁ、一人は変な奴だけどな。
一敗だ。この試合負けられねえぜ山南さん」

 変な奴とは無論、左之助のことである。
歳三はそう言うと、永倉と平助、そして井上松五郎を睨みつけた。
この三人は要注意人物だ。

「藤堂くんとこういう形で試合うとは思いませんでしたね」

 山南は天然理心流に入門する前に、平助と同じ北辰一刀流を学んでおり、平助とは同門なのだ。


 総司の太鼓の音と源三郎の鉦の音が鳴り響き、勇が軍配を上げた、

いよいよ二回戦目の始まりである。

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