鬼の生き様
再び野試合は激しく繰り広げられた。
白組から真っ先に斬り込み隊長として突っ込んで来たのは平助であった。
小柄で華奢な平助だが、度胸が据わっているのだ。
しかも強い。
平助は門人達の土器をどんどんと割っていき、それに続くように永倉も我武者羅(ガムシャラ)に敵陣へと突っ込んでいく。
流石は永倉である。
この年、百合本昇三の道場にて神道無念流の免許皆伝を与えられた腕前だ。
平助も北辰一刀流の目録の腕前で、誰よりも先駆けて剣を振るう。
二人の猛者に紅組は狼狽した。
「怯むな!斬れ斬れ!」
左之助はそう言いながら、のぼりをグルグルと振り回しながら敵陣へ突っ込む。
さすがは自分で腕に自信ありと言った男だ。
槍との試合に馴れていない天然理心流の門人達は、次々と土器を割られていった。
歳三も山南も前へ前へと出た。
歳三は剣術というよりも、もはや喧嘩に近い剣術である。
平助に向かい地を蹴り上げ、砂をかけ、目が眩んだ隙に土器を割ってのけたのである。
「土方の旦那ァ、卑怯じゃねえか!」
永倉はそう言うと歳三はニヒルな笑みを浮かべた。
「喧嘩に綺麗も汚ねえも無えんだ。
斬られちまったら、おしまいなのさ」
その目は殺気で漲っていた。
ゾクリとした永倉は躊躇した。
これはただの野試合ではなく、殺し合いなのだ。
その躊躇した姿を、歳三は見逃さなかった。
永倉の土器は歳三によって呆気なく割られてしまった。
永倉が弱いわけではもちろんなく、試衛館のなかで唯一、総司と腕が並ぶ剣の遣い手だが、歳三の気迫というものに負けたのである。
山南によって、松五郎の土器も割られ、白組は総崩れとなった。