鬼の生き様
湯治に出掛けていた小島鹿之助だが、帰ってくるとその楼閣の件を彦五郎からの手紙で知り憤怒した。
「大切な襲名披露の功業は千百年も語り継がれるべきなのに、誠に口惜しい事。
貴方がついていたのに、なんたる醜態ですか」
と彦五郎に説教をしたのだ。
「だってさ、勇が宗家四代目になったんだぜ?
そんな嬉しい時ャ、酒でも呑んで祝いてえじゃねえか」
勇と彦五郎と鹿之助の三人は、義兄弟の契りを交わしている。
「……あぁ、そうだな。
彦五郎さん、これで天然理心流は安泰だ。
すまないカッとなってしまった」
上石原村の多摩の百姓として生まれてきた宮川勝五郎という少年が、剣の才能を認められて近藤家の養子となり今日まで、切磋琢磨と剣術に励んできた。
武家の娘を嫁に摂り、天然理心流宗家四代目となった。
勇の出世を二人は、本当の兄弟のように喜んだ。
「それにね、三試合やってさ、俺が萩原さんに勝ったから白組が勝ったんだもん。
俺だって嬉しくてドンチャンしちゃうよね」
彦五郎はそう言うと笑った。
やれやれと言いながらも、鹿之助の怒りはどこかへと消えてしまい二人で笑いあったのだ。
しかし、当の勇の心には黒い渦が巻いていた。
(天下国家が大事な時に、俺は所帯を持ち、天然理心流宗家四代目となった。
順風満帆…たしかにそうかもしれんが、果たしてこれで良いのだろうか)
子供の頃から、武士に憧れ、赤穂浪士に憧れ、三国志に憧れ生きてきた。
かつて歳三が話していた武士への夢。
『天下太平のぬるま湯にどっぷり浸かって、手前の保身しか考えない奴のことではなく、戦国武将のように、信念の為に命をかける。
損得勘定じゃ動かない誠の武士』
(俺もトシ、お前さんの言うような誠の武士になりてえ。
俺はやっぱり江戸の田舎道場なんかで埋もれる人生は真っ平ごめんだぜ。
しかし一体、今の俺には俺には何ができる)
勇は悶々としたぶつけようのない欲求不満に胸が締め付けられていた。