鬼の生き様
「時代は動いているのだ。
俺達は一体、何をしている」
稽古が終わり、夕餉を食した後は試衛館の食客一同は世論についてよく熱い会話を繰り広げていた。
勇は暗澹たる思いで、坂下門外の変について話していた。
水戸藩は水戸学の影響で尊皇攘夷の志が篤く、桜田門外の変にしても坂下門外の変にしても、身命を投げ打って国を変えようと命を捧げた男達が羨ましくさえ思った。
講武所の一件から、勇は書斎に篭り本を読み更けているのだが、かつての歴史や社会情勢に触れてみると、もはや、これからの武士は剣だけではなく知恵も必要だと思い知った。
「尊皇攘夷の志を持って、俺達も何かでけえ事をやりてえ」
食客達と入り混じりながら、勇はこの胸の中に広がるモワッとした感覚を吐き出していた。
「あぁ、夷狄どもの天狗みてえな鼻。
俺もぶった斬ってやりてえぜ」
左之助はそう言うとゲラゲラと笑った。
そもそも尊皇攘夷とは、天皇を尊び、夷狄を攘(うちはら)うという思想だ。
「しかし水戸藩の連中も、桜田門の件にしても、今回に関しても血の気が多い奴等が多いな」
「それほど幕府に対しての不満が多いんでしょう」
山南はそう言うと、酒をクイっと呑んだ。
山南の思想は尊皇攘夷だが、どちらかといえば勤皇寄りである。
「しかし幕府があってこそ今の日本があるのです」
勇や歳三、源三郎たち多摩の百姓は、天領の地で育ってきた故に、幕府に忠誠を誓うのは生まれながらに当たり前の事であるのだ。
「政治の話って難しいや」
総司は眠たそうに欠伸をすると、「総司、今の時代は剣だけじゃ駄目だ」と勇は言う。
山南もそれに賛同するように頷くが、総司はキョトンとした顔で、
「だって興味ないし、私は天子様とか公方様とかよりも、近藤先生や土方さん達の為に剣を振るいたいな」
と再び伸びをした。