鬼の生き様
第三章
合縁奇縁
文久三年(1863年)一月七日。
この年の正月は妙に慌ただしかった。
事の発端は試衛館の門を一人の男が叩いた事から始まる。
「土方さんに御目通り願いたい」
その男の形相は実に恐ろしかった。
勇は固唾を飲み込み、しばらく男を凝視した。
(トシはこの男と新年早々喧嘩でもしたのだろうか)
男の腕からは流血していて、ただならぬ雰囲気が醸し出しているのだ。
(殺気立っているなァ、トシを呼ぶべきだろうか……)
道場主は門人を守るのも仕事である。
様々な感情が押し寄せ、勇は困惑した表情を浮かべたが、人の心情というのは目を見ればなんとなく分かる。
まるで捨てられた子犬のような目をした男を見ると、(あぁ、この人は本当に困っている顔をしてやがる)と直感し、客間へと通した。
しばらく経つと、歳三がやって来た。
「なんだ、山口ではないか。久しぶりだな」
「ご無沙汰しております」
男はかつて歳三とともに篠原道場の者と死闘を繰り広げた山口一であった。
「どうした。
また道場破りだと疑われて袋叩きにでもされたか?」
山口の腕の傷は紛れもなく刀傷だと分かった。
しかし山口は首を横に振った。
「……しばらく匿ってくれないか?」
山口はそっと言った。
「一体何をした」
「聞かないでいただきたい」
「聞かなければ匿う事など出来んだろう。
それにここは俺の道場ではなく、近藤勇先生の道場だ」
ただの揉め事ではないはずだ。
山口程の腕前なら、逃げる必要もないだろう。