鬼の生き様
「まだはっきりと分かった事ではないのだが、幕府が何やら〝浪士組〟というのを募集しているらしい」
永倉はそう言うと、試衛館の一同は目を輝かせた。
「どう言う事です?」
真っ先に口を開いたのは、勇であった。
講武所の一件から、生まれながらの身分によって武士になるという事を諦めていたのだ。
「俺もそれは分かりません。
聞く話によると、御公儀の為にひろく天下の志士を募り、攘夷を断行するとの事。
参加する者は今まで犯した罪を免除される。
文武に秀でたものを重用するらしい」
「分かりやすく言えば、腕に覚えがある者であれば、罪人であろうとも農民であろうとも、身分を問わず、年齢を問わず、誰でも参加できるという事らしいです」
一に、攘夷。
二に、大赦。
三に、天下の英才を教育する。
この〝急務三策〟を、幕臣の山岡鉄太郎を通して時の政治総裁として権威高い越前候、松平春嶽(まつだいらしゅんがく)に上書し、尊攘志士に手を焼いていた幕府はこれを採用し、松平上総介(まつだいらかずさのすけ)のもとに浪士組結成が許可された。
しかし、幕府の言うことだ。
また講武所と同じような条件を出し、浪士達が集まったら手のひらを返し身分を気にするのではないか、と勇は半ば半信半疑の姿勢でそれを聞いている。
「出羽庄内の清河八郎という男の案らしい」
清河八郎。
永倉の発したこの名前に、歳三はピンと来た。
(あの腐れ浪人か、臭いな。
あいつはどうもいけ好かねえ)
蕎麦屋で以前に揉めたことがある。
山南との出会いもそこから始まった。
「俺は清河八郎という男の話はどうも信頼ならんな」
歳三はそう言い、人を馬鹿にしたような薄笑いを浮かべながら続けた。
「清河以外の奴の話も聞かねえと、俺は反対だね」
「浪士組募集には松平上総介という幕臣の方も絡んでいるようです。
是非、真相を聞きに後日伺いましょう」
山南はそう言い、歳三は頷いた。
武士になれるかもしれない。
何をそう悩むことがあるのだろうか、しかし清河八郎とは歳三にとってかなりの曲者(くせもの)だ。
ここは慎重に事を進めなければならないと思った。