鬼の生き様
道場は冷え冷えとしていたが、一同はそんな事を忘れていた。
「やったじゃねえか、近藤さん!
これで念願の武士になれるんだぜ」
左之助ははしゃぎながらそう言った。
勇は強く頷き、人一倍大きい口からは笑みが溢れていた。
「もうひもじい思いもしなくていいんだろ?
それでよ、給金ってえのはいくらもらえるんだ?」
左之助ら下品な笑いを浮かべながら聞くと、永倉は鼻を鳴らしながら、
「一人当たり五十両らしい」
と想像を絶する大金を口にすると、一同は目から鱗のようにぽかんと口を開けた。
「マジかよ!すっげえなおい!
お前ももっと喜べよ!」
左之助は子供のように飛び跳ねて、隣に座る山口を抱きしめたが、見慣れない顔にふと我にかえる。
「…あんた誰?」
「……申し遅れました。山口一です」
「そんな門人居たっけ?」
「トシの友人だ。左之助、無礼だぞ」
勇の制する声に、あらら、と言いながら左之助は一歩退いた。
「ところで、その友人の事なんだが…。
勝っちゃん、しばらく山口を匿ってもらえねえか?」
歳三はそう言うと、勇は先程は聞かなかったが、いわくありげな山口を見て何かあったのか、と事の詳細を訪ねた。
かくかくしかじかと話す山口に、勇はしばらく口を閉ざした。
「よく分かんないけど私達と一緒に山口さんも浪士組に参加すればいいんじゃないですか?」
総司はそう提言した。
確かに浪士組に参加する者は今まで犯した罪は大赦になる。
「しかし皆様にご迷惑おかけしてしまうかもしれません」
「源さん、外に役人達が居ないか見てきてはもらえないだろうか」
「かしこまりました」
たしかに山南と永倉が、浪士組募集の話を聞き試衛館に戻っている最中、奉行所の役人達がいつもより多く出動しているとは感じた。
「表に二、三人ほど…」
戻ってきた源三郎はそう言った。
今、外に出すのはまずい。
しばらく山口を匿う事となった。
「トシを頼ってここに来た方だ。
こうなったら山口さんを守り抜く。
皆さん、くれぐれも下手を打たないように」
勇はきつく一同を見渡した。
その言葉に、硬く頷いた。