鬼の生き様
初めて牙を向けてきた周斎を前に、フデの顔はみるみる真っ赤に染まっていく。
周斎は歯止めが利かずに、さらにフデに対して爆発した。
「そもそもフデ、お前さんだってもとはといえば農民の子ではないか」
刹那、戸惑った様子を見せたフデだが、すぐに般若のような面立ちへと戻り立ち上がった。
「だから悔しいのです!
私は身売りされて芸者に入った。
絶対に成り上がってみせる、私は努力に努力を重ねようやく天然理心流三代目、近藤周助に出逢いました」
フデは周斎の顔をチラリと見ると、フンと鼻で笑った。
「これでようやく、武家の嫁になれる。
……そう思っていたのに、あなたも元はといえば小山村の百姓」
周斎はそれに関しては、申し訳そうに頭を下げていたが、別に隠していたわけではない。
「私は人生を恨みました。
子宝に恵まれない私達に養子をとろうと話になり、貴方が選んだのは、それもやはり武士の子ではなく多摩の百姓の倅」
フデはじっと勇を見た。
憎々しい憎悪の目で、勇を睨みつけた。
「こんなに悔しいものはありますか!
私はこんなにもがきながら武士の嫁になる事も、武士の母になる事も出来なかった」
芸者で働いていた事や、農民の子だったという事を勇は今まで知らなかった。
「それなのに宮川勝五郎は、いとも簡単に近藤家に養子として入り帯刀を許され、挙げ句の果てには御三卿の武家の娘を嫁に貰った。
天然理心流宗家四代目を継ぎ、それはさぞかし良い気分でしょうね。
それで今度は、将軍警固?
侍ごっこも大概にしなさい!」
悔しかった。
武士への道をすらすらと進んでいく勇が憎かった。