鬼の生き様

果たして何の役職に就くかは分からなかったが、歳三は平隊士との差別化が図れればそれでよかった。

あと三日後には、いよいよ上京だ。

 小野路村の小島鹿之助は、歳三には刀を。
勇には鎖帷子(くさりかたびら)を送ってくれた。

そして八王子千人同心の源三郎の兄、井上松五郎も挨拶にやって来た。

「近藤さん、歳三。
俺は後から将軍様を警固しながら上洛する。
先に行って待っててくれ、京の都で会える事を楽しみにしているぞ」

 八王子千人同心は、幕府の職制のひとつで、武蔵国多摩郡八王子に配置された郷士身分の幕臣集団である。
甲州口の警備と治安維持を普段から行なっているが、今回の家茂上洛には幕府から八王子千人同心が命じられ三百人強ものお供で上洛することと決まっていた。

「源三郎、くれぐれも近藤さんをよろしく頼むぞ」

「はい。兄上も公方様直々の警固。
我が井上家の誇りにござります」

源三郎はそう言うとにこりと笑った。
はじめは浪士組に参加するつもりは源三郎にはなかった。

試衛館を勇の代わりに守り、近藤周斎やフデ、そして勇の愛娘のタマの世話をする方が性に合っているが、周斎から勇を頼むと言われたのなら、勇のお目付役になる。

普段は無口で温厚な人だが、一度決めたら梃子でも動かない頑固な源三郎で、上洛の決意は固かった。

「そうだ、フデさんが近藤さんに会いたがっていたぞ」

珍しい、ギクリとした。
今までフデが勇を呼び出したことはないのだ。

今回はことが事だけに、厭な予感が胸を過ぎる。
しかし呼ばれたのなら行くしかあるまい。

勇は四谷舟板横町へと向かった。

< 140 / 287 >

この作品をシェア

pagetop