鬼の生き様
丁稚奉公(上)
弘化二年(1845年)。
江戸上野いとう松坂屋呉服店。
「本日からお世話になります」
歳三は十一歳になっていた。
色白の肌は透き通るように綺麗で涼しげな顔をしていた。
生まれながらに容姿は整っていたが、それがさらに磨きがかかり、美少年という言葉は、まさに歳三の事を指すのであろう。
喜六は将来、歳三が商人としてひとり立ちできるようにと、丁稚奉公(でっちほうこう)にだされたのである。
松坂屋は、江戸でも指折りの大きな呉服店で、奉公人のしつけも厳しかった。
言葉遣いから始まって、箸の上げ下ろしに至るまで、ことごとく注意された。
歳三の行う主な仕事は、煙草盆や火鉢の掃除、水撒きや店先の掃き掃除などであるのだが、番頭は、神経質な男で皮肉ばかり言うやかましい人物であった。
歳三の仕事ひとつひとつに目を光らせ、少しでもやり残しを見つけると、ねちねちと説教をするのである。