鬼の生き様

「うむ、分かった。
拙者の兄上は、会津藩公用方の手代木直右衛門(てしろぎすぐえもん)という者。
会津藩は今や京都守護職に任命されておる。
不逞浪士が渦巻くこの京にて、浪士が浪士を取り締まるというのは、会津藩にとっても非常に助かる事であろう」

「ということは?」

「会津藩の御預りにしてもらうように、兄上に頼んでみてやろう」

「ありがとうございます!」

 新徳寺を出て歳三と山南は頷きあった。
これで京都守護職、松平肥後守容保との関係をもつ事が出来た。

「さぁて、どうやって芹沢を欺くかが問題だ」

芹沢は躍起になって清河を斬ると息巻いている。
斬ると言い出したら必ず斬るだろうと二人は踏んでいた。
 帰り際に門のあたりを見てみると、現に新徳寺にて芹沢は漲るばかりの殺気を醸し出し、清河の同志らもうすうす感づいて警衛しているので、芹沢も手のくだしようがない。

「もし時が来たなら、芹沢に山南さんがついてほしい」

「しかし私一人で芹沢さんを止める事が出来るだろうか」

「平助をつけよう。 平助も北辰一刀流だ。
清河と流派が同じなら、芹沢も欺きやすいだろう」

なるほど、と山南は言った。
そして試衛館一派の歳三、勇、総司、永倉、源三郎、左之助の二手に別れることに決めた。
その話は勇達にも話し、極秘裏に清河を逃がす手順を話した。

 ある日の事だ。
清河が山岡鉄太郎と二人で大仏寺へ出かけることが芹沢の耳に入った。

「いよいよ奸賊(かんぞく)ばらの清河に隙ができる時が来たようだ。
各々方、清河を斬る覚悟は出来ているな」

芹沢はそう言うと、芹沢他十二人の浪士達は頷いた。

「二手に別れましょう」

歳三はそう提案を出す。
二手に別れれば取り逃がすこともないだろう、と新見もそれに賛成した。
地図に目をやり、歳三は鉄扇で地図の上をなぞった。

「芹沢さん達は四条通り堀川。
近藤さん率いる俺達は仏光寺通りの堀川にて待ち伏せをするのはどうだろう」

歳三の提案に山南は反対した。

「いや、それでは芹沢さん達の人手が少ないな。
私と平助は芹沢さんにつきます」

ここまでは歳三の企て通りに事が進んでいるが、平山五郎は「別にいらんぞ」と言った。
しかし山南は首を振り続けた。

「清河さんはご存知の通り北辰一刀流の免許皆伝の腕前です。
私とは清河さんと同門で、彼の剣筋をよく知っています」

なるほどな、と芹沢は言った。
そうと決まり十三人の志士達は各々、四条通り、仏光寺通りまで向かった。


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