鬼の生き様
壬生寺に歳三と山南はいた。
境内には子供の声が溢れかえっている。
「全くよくやるぜ」
歳三は遊んではしゃぎ回る子供達を見て半笑いをした。
「息抜きには良いんじゃないでしょうか」
山南は歳三とはまた別の笑みを見せている。
子供達の中心になって遊んでいるのは、総司であった。
「沖田はん、次は鬼ごっこやで」
「いいよ、勇坊が鬼だよ」
「えぇ!沖田はんが鬼やないん?」
「ダメだよ私は正義の味方なんだから、鬼じゃ役不足だ」
冗談ばかり言いながら子供達と笑い合い、戯れている。
歳三は武士らしくしろ、とはじめは窘めていたが、最近では総司が壬生寺で子供達と遊んでいるのは見慣れた光景となっている。
「土方さん、山南さんもやりませんか?」
総司は人懐っこい笑顔を浮かべて、二人の元に駆け寄ってきた。
八木為三郎と勇之助もやろうと言ってきたが、歳三は首を横に振った。
「悪いが遊んでいるほど暇じゃない」
「すまないが、また今度遊びましょう。
為坊、勇坊、沖田くんも怪我はしないように気をつけて遊ぶんだよ」
「山南さん、先に行って待っている」
歳三はそう言い足早に去って行った。
山南は頷き腕を組んだ。
腕を組む動作をしたら、ジャラリと金が落ちた。
「あっ、山南はんの懐から銭落っこちたで」
「いよいよこの服も駄目か」
山南は小っ恥ずかしそうに笑い、金銭を拾い上げる。
「沖田くん、夕刻の見回りに遅れないようにね」
山南はそう言いながら、歳三が待機している居酒屋へと向かった。
「お待たせしました」
山南は歳三の姿を見つけると、着座した。
「会津藩から支度金が出ているから、とりあえずそれで単衣(ひとえ)の着物を買いませんか?」
山南は穴の空いた襤褸の着物を歳三に見せた。
歳三の着物もだいぶ刀の鍔で腹元が擦れ、生地が薄くなっていた。
「俺もそう思っていたところだ。
これじゃ“身ボロ”だもんな」
壬生浪(ミブロ)ではなく身ボロと揶揄されているのを歳三も山南も気にしていた。
しかし単衣を買ったとしてもその後に残る金が無くなるが、時期的には良かった。
もう三ツ木瓜の揃いの羽織で、松平容保や会津藩兵にお目にかかるのは歳三にとっても屈辱的な気分であるのだ。