鬼の生き様
歳三は本題に戻そうと咳払いをした。
「それで山南さん、話っていうのは?」
今日、二人が一緒に居るのは山南から話があると誘われての事であった。
「土佐の吉村寅太郎(よしむらとらたろう)という男をご存知ですか?」
いや、と歳三は首を横に振った。
「土佐の脱藩浪士を集めた土佐勤王党(とさきんのうとう)の志士なんですが、私達が上洛した時の足利将軍の木像の梟首事件があったでしょう。
その時に咎人だとして捕縛された男です」
足利三代木像梟首事件の記憶は新しい。
その吉村寅太郎が赦免されたというのだが、歳三は関係なさそうに肴をつまんだ。
「ここに呼び出してまで話す事ではないだろう」
歳三はそう言うと、山南は姿勢を正した。
土佐で投獄されていた吉村が赦され、ひそかに入京したことは、まだそれほど世間に知られていない。
「その吉村がこの京で、より過激な攘夷派組織を立ち上げるために暗躍しているらしいのです」
尊攘の過激派な志士の吉村寅太郎が頭角を現したのだ。
山南の話しぶりに迷いはなく、歳三はキリッとした目を一層大きく開けた。
「あくまでも噂ですが、その吉村と殿内さんが接触をしているようなんです」
殿内は過激な攘夷思想の持ち主かもしれないという事だ。
空気が重くなっていく。
「壬生浪士組を過激な一団にでもするつもりか?」
「もしかしたら…」
「あんたが殿内だったらどうする?」
「私なら、まず同志を集めて徒党を組みますね。
息のかからないうちに仲間につけて、壬生浪士組の顔となっている近藤さん、芹沢さん、そして谷さんに奇襲をかけて斬るでしょう」
「山南さんもおっかない人物だ。
抜かりがないが、俺もそうするな」
ニヒルな笑みを浮かべてそう言う歳三、同志を集める日なんてお互い分かりきっていた。
壬生狂言が行われる日は屯所も手薄になるからその時だ。
しかし問題は勇である。
血生臭い粛清などしたくない事は歳三も山南も知っていた。
「さてどうしようか」
歳三は身を乗り出して訊いた。
山南はしばらく無言で考えている。
「……」
「芹沢を利用しよう」
「芹沢さんを?」
もとより殿内を斬ると息巻いているのは芹沢だ。頼めば粛清などその場で斬り伏せて意図も簡単にやってしまうだろう。
しかし身内での諍いが今あるのは今後の壬生浪士組の為にもまずい。
壬生村で始末するのは避けたい。
歳三は山南にゆっくりと暗殺の計画を語り始めた。