鬼の生き様
「昨晩、殿内義雄さんが四条大橋にて狂人によって暗殺されました。
下手人は未だ見つかっていません」
壬生浪士組一同集まり、亡き殿内義雄と行方知らずの家里次郎が居ない部屋で勇は深刻そうな顔をして言った。
天誅吹き荒れる京の町で、壬生浪士組の隊士が命を狙われるという事は過激派の連中の仕業だと勇は信じたかった。
「近藤さん、下手人が分からないとおっしゃるのか?
ここに居る誰もが言わないだけで分かっていることだ」
粕谷新五郎が立ち上がりそう言うが、勇は首を横に振り静かに言った。
「奉行所からの報せを待ちます」
「同じ苦楽を共にしてきた仲間であろうと邪魔者は斬り捨てあやふやにする。
そんなやり方では隊士が入るにつれ、くだらない仲間内での諍いが増えるだけだ。
これがあなた方のやり方というならば、私は壬生浪士組を脱けさせて頂く。御免」
粕谷新五郎はそう言うと部屋から出て行くと、根岸友山もそれに続くように「さて、わしらはせっかく西へ来たのだ。血生臭い事はかなわんので伊勢詣りでも行って江戸へ帰るとするかの」と理由をつけて遠藤丈庵、清水吾一らの家来を引き連れて出て行った。
谷右京は狼狽したような顔を見せた。
「谷さんはどうするのですか?」
勇は心配そうに訊いたが、しばらく沈痛な面持ちを一同は浮かべ、右京が重苦しい無言を壊した。
「会津中将御預り、壬生浪士組…か。
私はね近藤さん、いつか歴史の表舞台に立つかもしれん人間として胸を張って壬生浪士組だと言いたかったのだが、粕谷さんの言う通りこのやり方ではいかんのですよ。
もしも殿内さんを殺したのが、この中にいないと近藤さんが言うならば私はその言葉を信じたい」
勇は目に悲しみの色を浮かべて右京と目を合わせた。
血を血で洗う内部抗争に、内なる右京には、どうも祐天仙之助と大村達夫の姿がついて離れない。