鬼の生き様
「もし次に同じような事が起こったならば、その時は脱けさせて頂くやもしれんが、しばらくはまだここで身を置こうと思います。
しかし殿内さんのように粛清者が出るということは、我等に恨みつらみを抱える親、子供などが出てくるということ。
仇敵が壬生浪士組という事で私の末代まで狙ってくるというならば、落ち着いて眠れはせんのだ」
「という事は?」
「壬生浪士組は脱けないが、今後一切、私に関する書物や手紙は書かんで頂きたい」
なるほど、と芹沢は言った。
我が知らぬ顔でいた芹沢は大きく欠伸をしながら、しらを切り
「もう話は終わっただろ。
……さてと、飯でも食いに行くかな」
と言い、立ち上がり部屋から出て行く。
それに続き新見や佐伯と芹沢を慕う面々も立ち上がり芹沢の後を追う。
その背中を勇は物憂げに見送ると、しばらくしてから勇も「一人にさせてくれ」と部屋から出て行った。
部屋はまるで葬儀のように重苦しい空気が流れていた。
「芹沢さんでしょ?」
部屋は水戸一派の人間と佐伯が出て行き勇を除いた試衛館一派と右京と斎藤のみが残った。
総司はそうポツリと呟いた。
「言うな」
永倉は勇の気持ちを汲んで言葉を制した。
歳三の頭の中には、殿内を殺すように仕向けた事で勇の底の抜けたような哀れみの表情がぐるりぐるりと渦巻いていた。
「近藤先生かわいそうだよ。
皆から近藤先生ばかり責められて…」
総司の表情にも陰鬱の陰が出来ている。
一同は何も言わずに、無情にも悲しさが各々しみじみと刻み込まれていく。
「俺は決めたぜ」
歳三は意を決したような声でそう言った。
「もう勝っちゃんにあんな想いはさせねえ。
嫌われ役は俺が全て引き受ける」
それは、歳三が鬼となる意思である。
誰がどんな噂を立てようが構わない。
勇が辛い想いをさせない為にも、どんな厄介な事でも全部受け付けて立つ覚悟であった。
──俺は鬼になる。