鬼の生き様
第四章
浅葱色の想い
「おじちゃん怖いよ」
辿々しい言葉で話をするのは八木源之丞の娘セイであった。
壬生浪士組の前身、浪士組が入京してからセイはますます痩せ、皮膚は蒼白いまま血の気を宿してはいなかった。
「人を斬ったんやね。寂しそうな顔しとる」
「おじちゃんがそんな悪い事をするわけないだろう」
「うち、分かるんやで?」
セイのすぐ枕元には殿内義雄殺しの下手人である芹沢鴨が座っている。
もう死期が近い事を、芹沢は勿論、セイも幼いながらに気が付いていた。
事あるごとに芹沢はセイの部屋に看病をしにやってきていた。
水戸に年の離れた妹がいるのだが、それがセイに瓜二つなのだ。
病弱なセイに芹沢は緑寿庵清水(りょくじゅあんしみず)の金平糖をセイに渡した。
緑寿庵清水は百蔓延にある弘化四年(1847年)に創業した日本で最初の金平糖専門店だ。
「疲れた時には甘いものがいいらしい。
食べて精をつけるんだぞ」
そう言うと芹沢は部屋を出て、部屋へと向かうと酒を煽った。
殿内義雄を斬った事に、後悔などはしていなかったが、無性に侘しく虚しい気持ちが芹沢の心中に渦巻いている。
そんな気持ちを埋めるには、呑むしかない。
それしか、気の紛らわせ方というのを芹沢は知らなかった。
一方、歳三は勇のもとにいた。
「殿内さんの件に、お前は本当に噛んでいないのか?」
「あぁ」
「…全く、嘘が下手なんだよ」
「全てはお見通しってか。
殿内は吉村寅太郎という土州の過激浪士との繋がりがあると噂を知っちまったのさ」
勇は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
土佐の吉村寅太郎の名前は聞いた事があった。
「その事を芹沢に伝えたまでだ」
俺は悪くない、そう言うような言いぶりで歳三は言った。
唇を噛み締めて「皆は芹沢さんを疑っている」と後味の悪いような顔を勇は浮かべた。
「斬ったのは芹沢だ」
「仕向けたのはお前だ」
勇の頭の中は混沌として溜息を吐いた。
「終わった事は仕方がないだろう。
殿内と家里は尊攘の過激浪士に寝返り幕府に歯向かおうとしたのだ」
そうか、分かった。と勇は静かに言った。
吉村寅太郎という男が足利三代木像梟首事件に絡んでいる事は山南から聞いていた。
その件での君主である松平容保のやり場のない怒りは、勇とて同じであったのだ。